地獄から来たパンプス。

「なんかうちのフラット、臭くない?」

つい先日、仕事から帰宅した配偶者の第一声が「臭くない?」だった。配偶者曰く、ここ最近ずっとフラットが臭いらしく、何かが配偶者にダメージを喰らわせているらしい。出勤または帰宅する度に、鼻が破壊されるような思いをするようだ。


当初、ぽろちは家の中が臭いのだと指摘されているのだと思い、ひどく動揺した。自宅警備員としてネット活動に励んでいる傍ら毎日念入りに掃除している身としては、この配偶者の「臭い」にかなりショックを受けたし、家の中の臭いに全く気付かない自分に震えた。呆然としながらも配偶者の話を聞いていると、どうやら家の中ではなく、家を出た瞬間から外に出るまでの間で、階段を上り下りしている時や、通路を歩いている時。つまり、フラットの中のみが臭っているというのだ。基本的に平日はほぼ自宅待機、土日のみ外出するぽろちは、その臭いに全く気付かなかったし、わからなかった。

フラットは集合住宅。切実に臭さを訴えてくる配偶者には悪いが、まあ、ぽろちと配偶者以外の住民も暮らしているのだからたまには臭うかもしれないな…とこの時は楽観的に思っていた。配偶者が出勤する直前に、我慢できず階段の踊り場でおならをしてしまった住民がいるのかもしれない。普段より特別臭いおならを。それに、自宅の中にいるぽろちには、全く害はないのだ。本当に配偶者には悪いが、どんなに臭さを訴えられても身の危険を感じないぽろちには、正直どうでもよかったのだ。

しかし、楽観的だったぽろちも、ついにダメージを喰らうことになった。

その日の夕方、郵便を取りに玄関に向かうと、何か臭い。とにかく、臭い。異様な臭いが、ぽろち玄関を支配していたのだ。とりあえず窓を開けて空気を入れ替えたりはしたのだが、臭いは消えない。生臭いような腋臭のようなタバコのような、それでいてちょっと甘い…。とにかく表現し難い臭いなのだ。

何かがおかしい。もしやこれが配偶者が言っていた臭いなのだろうか…と、恐る恐る玄関の扉を開けたが最後、猛烈で強烈な臭いが一気に入ってきたのだ。大袈裟だと思われるだろうが、本当に臭い。具合が悪くなり吐き気を催しそうになりながら下の階へ下りると、フラットの住民達が大集合、何やら真剣に話し合っていた。

皆、この臭さに悩まされていたらしい。話によると、どうやらぽろちの下の階のカップルが、この臭いの原因だそうだ。彼らは、一ヶ月程前に引っ越してきたニート系肥満カップル。彼らがフラットの裏の庭でタバコを吸う姿を何度か見かけたことがあるが、ぽろちと配偶者は彼らがどういう人なのかは全く知らない。皆の様子を伺っていると、このカップルのお向かいに住んでいる夫婦が、「あのパンプスが臭いんだ…」と顔を顰めながらパンプスを指差した。

この肥満カップルは靴や私物を踊り場に出しているそうで、臭いと指差されたヒョウ柄のパンプスも無造作に出されていたものだった。言われてみれば、確かにこのパンプスが臭いを発しているような気がする。汗と腋臭と生臭さとよくわからない臭いが、そのパンプスからムンムン放出されていた。そこに誰かがよかれと思って甘い香りの香水をばらまいたようで、もう筆舌し難い状況に陥っているのである。

住民達は「Oh〜!」とやりきれない顔をしながらも、何故か皆そのパンプスを手にして臭いを嗅ぐという謎の行動。ぽろちは辞退させていただいたが、皆怒りながらも嬉しそうにくさい臭いを嗅いでいたのは不思議だった。近くで嗅がなくても、もう強烈に臭いのに。

この後、住民達は苦情の嘆願書をこのカップルに提出したそうなのだが、「このパンプスのどこが臭いのよ!」とキレられたらしい。この肥満カップルの嗅覚に、ぽろちと配偶者は改めて震えたし、フラット全住民にも衝撃が走っただろう。

そういうわけで、今日も配偶者は強烈なパンプスの臭いを嗅がないよう、息を止めて出勤する。フラットの共有スペースを、地獄にかえた一足のパンプス。名指しされ戦犯となったパンプスは、未だ図々しくも踊り場に置かれている。処刑される日は、まだ来そうにない。


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スコットランドのエディンバラ在住の夫婦、ぽろちと配偶者です。 エディンバラでの生活などを中心に紹介しています。 趣味はポテトを食べる事です。